なぜそうなるか
相続放棄を考えているとき、遺品に手を付けてよいのか——民法は「相続財産の全部又は一部を処分したとき」を単純承認とみなし、保存行為は除くと定めています
親が亡くなって、住んでいた部屋を片付ける話が出ました。
ところが、遺品の中から見覚えのない請求書が何通か出てきました。借金があるのかもしれず、そうなると相続を放棄するかどうかも考えなければなりません。
気になったのは、片付けの順番です。放棄を決める前に遺品を捨てたり売ったりすると、あとで放棄ができなくなる、という話を耳にしたことがありました。
とはいえ、部屋は借りたままで、家賃もかかります。冷蔵庫の中身のように、放っておけない物もあります。
どこまでなら手を付けてよいのかは、人から聞いた話だけでは判断がつきませんでした。そこで、裁判所が出している相続放棄の案内と、民法の条文そのものを開いています。
この記事では、その原文を引いて、条文がどんな場合を分けているかを並べます。ご自分の片付けがどれに当たるかは、ここでは判断しません。
・相続放棄は、家庭裁判所への申述で行う(裁判所)
・申述の期限は、相続の開始を知ったときから3か月以内
・民法は、相続財産を処分したときを「単純承認をしたもの」とみなす
・同じ条文は、保存行為などをこの扱いから外している
・放棄した後も、手元にある財産を保存する義務が定められている
相続放棄は、どこで、どうやってするの?
放棄すると決めたら、家族に伝えれば済む?
裁判所の「相続の放棄の申述」のページは、相続が始まったときに相続人が選べる道を3つ挙げています。単純承認、相続放棄、限定承認です。
相続放棄の説明は、次の一文です。
相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
手続の形は、次のとおりです。
申述先は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所です。費用として、申述人1人につき収入印紙800円分が挙げられていました。相続人が,2の相続放棄又は3の限定承認をするには,家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
期限はいつまで?
片付けが落ち着いてから考えても間に合う?
民法第915条の本文です。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
同じ条の2項で、決める前に財産を調べることが認められています。
調べても決められない場合のために、裁判所のページには期間の伸長の説明があります。家庭裁判所はその期間を伸ばすことができる、という案内です。相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
相続人が,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお,相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には,相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより,家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます。
遺品を処分すると、どうなるの?
放棄を決める前に遺品を売ったり捨てたりしたら?
第921条は、単純承認をしたものとみなす場合を3つ並べた条文です。その1号がこれです。
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
単純承認は、裁判所の案内の言葉でいえば、権利も借金などの義務もすべて受け継ぐ選び方でした。1号に当たると、放棄を申し述べる前にその扱いになる、という組み立てです。
2号が扱うのは、期間が過ぎたときです。
3か月のうちに放棄も限定承認もしなければ、それだけで単純承認とみなされる、という書き方です。相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
手を付けても、処分に当たらないものはある?
腐る物を片付けるのも「処分」になってしまう?
1号のすぐ後ろに、次のただし書きがあります。
条文が外しているのは「保存行為」と「第602条に定める期間を超えない賃貸」の2つです。何が保存行為に当たるかを1つずつ挙げた文は、第921条の中には見当たりませんでした。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
冷蔵庫の中身を捨てることや、形見分けとして衣類を配ることが、処分と保存行為のどちらに入るかは、条文の文言だけでは決まりません。この記事でも、どちらに当たるかは判断していません。
片付けを進めると決まった後で、出た不用品を誰が運べるのかは、別の話になります。業者に頼むときの許可の確かめ方は、遺品整理を業者に頼むとき、不用品を運ぶ許可を持つべきなのは誰かに自治体の案内を並べました。
放棄した後は、遺品を放っておいてよいの?
放棄が済めば、部屋の物とはもう無関係?
第940条の1項です。
義務がかかるのは、放棄の時にその財産を現に占有しているときです。期間は、ほかの相続人か相続財産の清算人に引き渡すまでと書かれています。相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
また第921条3号は、放棄した後であっても、相続財産を隠したり勝手に使ったりしたときは単純承認とみなすと定めていました。放棄が済んだ後の扱いも、条文の対象です。
この記事で確認したこと
・相続放棄は、家庭裁判所への申述で行う(裁判所)
・期限は相続の開始を知った時から3か月以内で、伸長の手続もある(民法第915条・裁判所)
・相続財産を処分したときは、単純承認をしたものとみなす(第921条1号)
・保存行為などは、その扱いから外されている(第921条1号ただし書)
・放棄した後も、占有している財産は引き渡すまで保存する(第940条)
条文が分けているのは「処分」と「保存行為」です。どちらに当たるかを先に確かめると、片付けの順番も決めやすくなります。
よくある質問
3か月は、亡くなった日から数えるのですか
民法第915条の文言は「自己のために相続の開始があったことを知った時から」です。裁判所のページも同じ言い回しで案内していました。亡くなった日そのものとは書かれていません。
片付けの前に、財産を調べるのは問題になりますか
第915条2項は、承認や放棄の前に相続財産の調査をすることができる、と定める条文です。調べることと処分することは、条文の上で別の行為として書かれていました。
放棄の申述に、何が要りますか
裁判所のページは、申述書のほか、戸籍謄本などの書類と、申述人1人につき収入印紙800円分を挙げています。添付する戸籍の範囲は、申述人が配偶者か、子か、父母などか、兄弟姉妹かで分けて並べられています。
この整理が変わる条件
- 民法第915条・第921条・第940条が改正された場合
- 裁判所が「相続の放棄の申述」のページの内容を改めた場合
出典
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第915条・第921条・第940条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
手続の前に、家庭裁判所の最新の案内をあわせてご確認ください。
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